量子コンピューティングとは?

量子コンピューティングは、量子力学を利用して、ある種の計算を従来のコンピューターよりもはるかに高速に行うことができます。

学習目的

この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。

  • 量子コンピュータを理解する
  • 量子ビットとビットを比較する
  • 量子コンピューターの運用がもたらす潜在的な影響について説明する

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量子コンピューティングとは?

量子コンピューターは、量子力学の性質を利用して計算を行います。量子コンピューターは、従来のコンピューター(スマートフォンやサーバー、デスクトップコンピューターなど、現在広く使われているコンピューティングデバイスのこと)よりも、ある種の計算が非常に速いという特徴があります。最も重要なことは、量子コンピューティングは、従来のコンピューティングでは全く効率的に解くことができない、ある種の極めて難しい数学の問題を解くことができるかもしれないということです。その場合、現在の暗号化の方法が危険にさらされ、機密データが流出することになります。

本の中の章を探すように、1ページずつめくって目的の場所にたどり着くことを想像してみてください。では、その代わりに、まず目次を参照し、ほぼ瞬時に目的の章のページを開くことを想像してみてください。量子コンピューティングは、目次の使い方に似ています。正しい解にたどり着くまでさまざまな解を試すのではなく、計算で考えられるすべての解をすばやく同時に調べるのです。

技術的には、従来のコンピューターは、十分な時間があれば、量子コンピューターができるようなどんな計算もできます。しかし、理論的には量子コンピューターが数分で解ける問題を、従来のコンピューターが解くには何世紀、何千年もかかるかもしれません。

実際には、研究者が作った、量子コンピューターが従来のコンピューターよりも速く問題を解いたという例は、ほんの一握りしかありません。量子コンピューターは作るのが難しく、一度作ると不安定なものです。しかし、量子コンピューターの構築に関する課題が解決されれば、量子コンピューティングは技術を恒久的に変えるかもしれません。

ビットと量子ビットとは?

従来のコンピューターは、情報をビットの列で保存します。ビットは情報の最小単位であり、その値は0または1のいずれかです。

量子コンピューターは、情報をビットではなく、量子ビットで保存します。量子ビットは、0、1、または両方の状態が混在した値を持つことができます(このような混在状態の専門用語を、「重ね合わせ」といいます )。実際、量子ビットの値は、不明確です。従来のビットと異なり、常に0か1のどちらかであることが分かっています。量子ビットの値は、誰かが観測するまで不確定なままです。

その結果、量子コンピューターは一度に複数の状態、またはバージョンの情報を保持することができるのです。これにより、通常のコンピューターに比べて飛躍的に速いペースで計算の解を処理することができます。これは、一人ですべての作業を行うよりも、複数の人が同時に作業を行う方が、より速くプロジェクトを完了できるのと同じことです。

情報の断片を地球に見立てたとします。ビットは、地球の北極にも南極にも位置することができます。量子ビットは地球上のどこにでも位置することができ、含めることのできる情報の可能性は大きく広がります。

もちろん、機械的なレベルでは、ビットや量子ビットは実際には球体ではありません。ビットとは、電荷を持つ(1)か持たない(0)か、どちらかのコンピューターの小さな部分です。量子ビットは、原子内の電子の不明確で不安定な位置のことです。

量子コンピューターを作る上での課題とは?

現在までに、量子コンピューターはほとんど作られていません。これまで作られたものは、小型で不安定であり、研究所以外の環境では使用することができないのです。

それは、量子コンピューティングがいくつかの大きな課題に直面しているためです。

外部環境からの干渉

量子ビットは脆弱です。ノイズ、振動、温度変化、電磁波などはすべて、量子ビットの内部状態を抑制したり破壊したりする可能性があります。量子コンピューターを正しく運用するためには、これらの干渉やその他の種類の干渉のない、高度に制御された環境である必要があります。このような環境は、研究所以外では構築・維持することが困難です。

環境要因は、従来のコンピューターにも影響を与えます。例えば、高温や強い磁力は、コンピューターの速度を低下させたり、破壊したりすることがあります。しかし、量子コンピューターの場合はもっと深刻で、現実の状況で運用できるかどうかが不明なほどです。

(デスクトップコンピューターのファンが高温対策になるように、いずれは干渉対策ができるようになるかもしれません。)

エラー訂正

量子コンピュータは、一般に従来のコンピュータに比べて安定性に欠けます。そのため、エラーが発生しやすい傾向にあります。すべてのコンピュータはエラーを起こします。そのため、従来のコンピュータはエラー訂正専用のメモリとプロセッサを内蔵しているのです。しかし、量子コンピュータは、その処理能力に対して、従来のコンピュータよりも多くのリソースをエラー訂正に割かなければなりません。

温度

量子ビットを安定させるためには、量子コンピューターを極低温(絶対零度より数度高い温度)に保つ必要があります。このため、高度に制御された研究所の環境外での運用は困難なのです。

これらの課題などの結果、量子ビットが数個以上の量子コンピューターはほとんど構築されていないのです。(256量子ビットの量子コンピューターが2021年に発表され、ある組織は2023年までに1,000量子ビットの量子コンピューターの構築を望んでいます。)

量子コンピューティングは、世の中にどんな影響を与えるか?

量子コンピューティングは、大規模な量子コンピューターが実現可能かどうか、またその大量生産が可能かどうかもまだ不明であり、その影響の全容を判断することは困難です。これは従来のコンピューティングとは対照的です。ほとんどの社会では、生活のほぼすべての場面において小型コンピューターが使用されており、多くの人はスーパーコンピュータに相当するもの(スマートフォンとして)をポケットに入れて持ち歩いています。

強力で安定した量子コンピューターは、社会に大きなプラスの影響をもたらす可能性があります。しかし、そのようなコンピューターが、プライバシーとセキュリティを新たな形で危険にさらすことも明らかです。

潜在的なプラス効果

量子コンピューターには、さまざまな応用が考えられます。より強力なコンピューターがあれば、金融業界はより正確に株式市場を分析し、予測することに貢献できるかもしれません。気候学者は、気象パターンをより精密に分析し、予測することができるようになるかもしれません。量子コンピューターが交通パターンをより正確に予測することができれば、交通システムはより効率的になる可能性があります。

これらの成果はすべて、まだ理論的なものです。また、仮に大規模で安定性の高い量子コンピューターが構築できたとしても、その処理結果は、入力されたデータと同じ程度の精度しか得らません。それでも、量子コンピューターは、これらの分野や類似の分野に大きなプラスの影響を与える可能性があります。

現在の暗号化方式では解除されてしまう

今日、機密情報は暗号化によって保護されることが多々あります。暗号化とは、鍵を用いてメッセージをエンコードし、その鍵を持っている人以外にはメッセージを読むことができないようにすることです。暗号化により、(TLSを使って)ユーザーがWebサイトで入力する個人データ、ハードディスクやサーバーに保存されている業務データ、政府の機密データ、その他の機密情報を保護することができます。

多くの暗号化の種類は、素因数分解などの難しい数学の問題を利用してデータを保護します。この問題の難しさが、実現可能な時間内に暗号化が解除されないことを保証しています。暗号化を解くためのよく知られたアルゴリズムは存在しますが、より大きな暗号化鍵を使うことは常に可能であり、鍵を見つけ暗号化を解くのに必要な時間は(従来のコンピューターの場合)指数関数的に長くなります。

しかし、量子コンピューターは、現在展開している暗号化方式で使われている難問を理論的に解くことができます。このシナリオでは、鍵のサイズを大きくしても、問題の難易度が指数関数的に高くなることはありません。したがって、暗号化を解くのにかかる時間は大幅に短縮される可能性があります。これにより、量子コンピューターは現在のほとんどの暗号化方式を解くことができ、暗号化されたデータはすべて漏えいする危険性があります。

量子コンピューティングに備えるために、Cloudflareはどのような取り組みをしているか?

Cloudflareは、現在、そして将来の機密情報を保護する量子耐性のある新しい暗号化方式の開発に深く関わっています。これは、より良いインターネットプロトコル、暗号化標準、プライバシー保護の開発を支援するCloudflareの大きな取り組みの一部です。

Cloudflareは、今後もこの分野での貢献を続けていきます。詳しくは、量子コンピューティングに関する最新のブログ記事と暗号化についての記事をご覧ください。