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AIエージェントによる政府の業務効率化

コストを削減し効率化の義務を遵守しましょう

政府機関やその他の公的機関は、現在、効率化とコスト削減という大きなプレッシャーに直面しています。しかし、パスポート申請の処理や社会保障給付金の支給から、外交文書の翻訳、公共スペースにおける不審な行動の検出まで、幅広い重要タスクの管理方法を見つける必要があります

一方、私たち市民は皆、政府機関や公的機関に対し、迅速で便利な体験が提供されることを期待しています。さまざまなデジタルデバイスを使用して、24時間体制で情報にアクセスし、リクエストを送信できるようにしたいと考えています。

公共部門のテクノロジーリーダーとの議論の中で、サービスを強化しながら効率的な義務を迅速に進める方法として、AIエージェント(「エージェンティックAI」)の実装に躍起になっているという話をよく耳にします。他業界の同業者も同様に、AIエージェントの将来性を認識しています。ボストンコンサルティンググループが最近行った調査では、商業企業のITバイヤーの58%が既にAIエージェントを実装していると報告し、さらに35%が実装を積極的に検討していると回答しています。これらバイヤーは、AIエージェントのROIを13.7%と期待しています。これは、非エージェントの生成AI(GenAI)アプリケーションで期待されるROIを上回るものです。一方、公的機関では大幅なコスト削減が可能です。

それでも、AIエージェントにはリスクが伴います。不正確な情報や誤った結果が提供されると、効率性とコスト削減のメリットがすぐに消えてしまう可能性があります。組織が実装を計画する際には、ガードレールを組み込み、継続的改善のループを作ることが、AIエージェントの利益を最大化するための鍵となります。


公共部門でのAIエージェントのユースケース

公共部門におけるAIエージェントには、数多くの潜在的なユースケースがあります。それぞれのケースにおいて、エージェントは人間による手作業を削減または排除するという緊急のニーズを満たすことができます。ここで、4つの簡単なユースケースの例を紹介します。

  1. 電話とWebサポート:AIエージェントは、社会保障局や国税庁などの機関への最初の電話やWebでの対応が可能で、市民への情報の提供や行動の推奨を行うことができます。追加のサポートを必要とする人がいる場合、AIエージェントは電話やオンラインでのリクエストを人間に転送することができます。

  2. 公共安全ビデオ監視:公共交通機関は、AIエージェントを使用して、バスの停留所や鉄道の駅からのリアルタイムのビデオ画像における異常を検出することができます。AIエージェントは継続的に稼働します。異常な挙動を識別し、適切な担当者に警告して、人間による詳細な分析が行えるようにします。

  3. 文書処理:複数の言語とさまざまな種類の文書を処理する必要がある機関の場合、AIエージェントはドキュメントを翻訳し、内容を分類した上で、特定の人物に情報を送信したり、適切な場所に保管したりすることができます。エージェントは人間による面倒な管理作業を大幅に減らすことができます。

  4. 内部機関検索: 政府機関内の従業員は、エージェントベースのチャットボットを使用して、特定の部署や機関に適用されるポリシーを迅速に見つけることができます。このツールは、電子的・物理的なポリシーのドキュメントを手動で検索するような費用と時間のかかる作業を排除するのに役立ちます。



AIエージェント実装の課題

AIエージェントは、あらゆる公的機関にとって有望なユースケースを数多く持っていますが、実装するにはいくつかの課題があります。

何よりもまず、AIエージェントの頭脳となる大規模言語モデル(LLM)は非決定性です。言い換えると、LLMにまったく同じプロンプトを5回提示すると、わずかに異なる5つの答えが得られることがあります。そして、モデルは答えが異なる理由を知らせることができないのです。この一貫性の欠如は、特に公共の安全に関連する決定を下したり、市民の個人情報を処理したりすることをAIエージェントに頼っている場合、重大な問題を引き起こす可能性があります。

これに関連する二つ目の課題は、ガードレールの欠如です。一貫性のない結果や誤った結果が損害を与える前にそれを検出するには、AIエージェントのフローを可視化し、コントロールする必要があります。同時に、LLMのトレーニングに使用するデータのコントロールを保持する必要があります。結果の精度は、正確で一貫性のある高品質のデータをモデルに提供することに大きく依存します。

ガードレールの欠如に関するこれらの問題に対処するためのツールが市場に登場し始めています。そのため、AIセキュリティサービスの最新情報を常に把握することが不可欠です。


AIエージェントのワークフローを開発する際の5つの考慮事項

AIエージェントをうまく実装するには、慎重な計画、技術的な作業、プロセス変更が必要です。最初にエージェントの機能を定義したら、システムとワークフローを構築する必要があります。そして最初からガードレールを組み込み、結果を継続的に改善するための手段を構築する必要があります。

  1. エージェントにしてほしいことを定義。これは簡単に聞こえますが、目標を明確に定義することは重要な第一歩となります。そうすることで、その目標を達成するためにAIエージェントが実際に必要かどうかを判断することができます。シンプルなワークフローツールで十分な場合でも、AIエージェントを急いで実装しようとする組織もあります。AIが必要になるのは、ワークフローがより動的な場合だけです。AIエージェントを使用せずにタスクを自動化できれば、時間と労力を大幅に節約できるかもしれません。

  2. 適切なLLMの選択。特定のタスクを自動化するためにAIエージェントが必要であると判断した場合、その推論と計画のメカニズムを確立する必要があります。多くの場合、オープンソースまたは商用のLLMを選択する必要があります。その後、検索拡張生成(RAG)を使用して機関固有のデータを取得することで、正確でパーソナライズされた回答を得ることができます。

  3. 技術的統合えの備え。AIエージェントの目的は、LLMを活用してタスクや目標を理解し、そのタスクを実行したり、その目標を達成したりすることです。これらすべてを実現するには、ブラウザを開いたりデータベースに書き込みをしたりできるツールにアクセスする必要があります。そして、LLMからツールへの相互作用を促進するには、適切な通信プロトコルが必要です。

    最近まで、開発者は主にAPIを使用してツールとLLMを統合してきました。しかし今や、AIシステムと外部アプリケーションを接続するための新しいモデルコントロールプロトコル(MCP)がデファクトスタンダードになりつつあります。MCPは広く受け入れられており、すべてのAIモデルとツールをシンプルに統合して連携させることができるため、イノベーションの推進力となるでしょう。

  4. ガードレールの設置。AIエージェントは自律的にタスクを実行することを約束していますが、そのコントロールにはある程度の人間の関与が必要となることが多くあります。具体的には、エージェントがアクションを実行する前に、人間を常にループに入れてアクションをレビューし、確認する必要があるかもしれません。

    多くの機関が使用している電話ベースのコンタクトセンターで使用されるAIエージェントの例を見てみましょう。エージェントが提供する応答を人間が検証して、正確性を確保することができます。小切手が受領されていないことについての問い合わせを受けた場合、AIエージェントは問題を確認し、「システムエラーにより小切手が送信されませんでした」などの応答を提案することができます。その後、人間はAIが生成した応答をレビューし、それが正しいことを確認してから応答して小切手を送信します。

    AIエージェントに関連するリスクを最小化するには、人間を常にループに入れることだけでなく、セキュリティ機能とデータガバナンスポリシーも不可欠です。

  5. クローズドループの作成。入出力をモニタリングすることに加えて、時間の経過とともにエージェントをより賢くより効果的なものにしつつ、結果の精度を継続的に向上させていく方法が必要になります。そのため、クローズドループを作る必要があります。このループにより、RAGシステム内のプロンプトや情報の流れ、またはデータセットの調整を行うことができます。

    テクニックを追加することで、精度をさらに向上させることができます。特に、より多くのデータをモデルに組み込み、より多くのコンテキストをプロンプトに追加することで、結果の精度を高めることができます。


AIエージェントの迅速な構築とデプロイの開始

一部の営利組織(SalesforceやMicrosoftなど)はすでにAIエージェントをワークフローに実装しています。これらの組織は、AIエージェントを活用してユーザーに新しい、あるいはより良い体験を提供するために、クローズド環境から始めています。例えば、Microsoftのユーザーは、AIエージェントに対し、特定の人からのメールを要約し、上司からの会議招集をすべて受け入れ、その予定と重複するリクエストを再調整するよう依頼することができます。

公的機関は、効率化とコスト削減の強いプレッシャーを受ける中で、AIエージェントの実装に向けた態勢が整っています。貴社でも、時間を節約し、手作業の必要性を減らすために、単純なワークフロー向けのエージェントの実装が進むかもしれません。

しかし、近い将来、より複雑でオープンな環境でAIエージェントを使用できるようになるかもしれません。例えば、AIエージェントとIoTの組み合わせは、自律的なツールや車両でのAIエージェントの使用など、重要な新しい可能性を生み出すでしょう。これらのユースケースは、運用効率を大幅に向上させながら、市民に提供されるサービスの質を向上させ続けることが可能です。これは政府機関にとって引き続き重要な目標となります。

Cloudflareは、貴社のAIエージェントの作成や必要なガードレールの設置を支援することができます。Cloudflare Workers AIプラットフォームは、Cloudflareのグローバルネットワーク上でAIエージェントやアプリケーションを作成・実行できるようにし、開発の合理化とコスト削減を実現して、パフォーマンスの最大化とモデルのスケーラビリティの向上に貢献します。一方、Cloudflareは、エージェントが使用するデータやモデルへのアクセスをコントロールすることで、AIエージェントの出力の精度を高めるZero Trustセキュリティモデルの実装を加速することができます。Cloudflareを使えば、政府機関やその他の公的機関はAIエージェントの力を活用して、サービスを改善し、コストを削減しつつ、AIエージェントを使用する際のガードレールを強化することができます。

この記事は、技術関連の意思決定者に影響を及ぼす最新のトレンドとトピックについてお伝えするシリーズの一環です。


このトピックを深く掘りさげてみましょう。

AIエージェント利用のためのガードレール実装についての詳細は、CISO向けの『AIの安全利用に向けて』ガイドをご覧ください。

著者

Dan Kent — @danielkent1
Cloudflare公共部門担当フィールドCTO



記事の要点

この記事では、以下のことがわかるようになります。

  • 公共部門におけるAIエージェントの4つの主要なユースケース

  • 実装に関して組織が直面する主な課題

  • 組織がワイヤーフレームプランを策定する際の5つの考慮事項


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